今日の1枚(43)

ベイヌムのデッカへの正規録音、これまでの3枚は1998年12月発売のデッカ50周年記念リリースでしたが、今日のものは翌1999年5月発売、同じくデッカ50周年のモノラル盤です。
ただし対象アーティストはベイヌムではなく、ピアニストのクリフォード・カーゾン。変則的な組み合わせです。POCL-4703(466 287-2) 。

①ブラームス/ピアノ協奏曲第1番二短調作品15
②ファリャ/交響的印象「スペインの庭の夜」

①は1953年5月から6月、アムステルダムのコンセルトへボウで、エドゥアルド・ヴァン・ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団の演奏。
②は1951年7月、ロンドンのキングスウェイ・ホールでの収録で、エンリケ・ホルダ指揮ロンドン新交響楽団との共演。
プロデューサーは John Culshaw 、エンジニアが Kenneth Wilkinson です。
カーゾン Clifford Curzon は1977年に叙勲し、以後は「サー」が付きますが、この両録音の時点では「クリフォード・カーゾン」の表記でした。
日本ではほとんど、というより全く評価されていませんでしたが、欧米では極めて評価が高かったイギリスの名ピアニスト。日本では1982年に亡くなってから漸く一部で話題になった程度でしょうか。

①は1953年にカーゾンが同曲を再録音したもの。日本盤の解説では、“カーゾンがまだ40歳半ばの心技ともにあふれていた時期の名演です。なおブラームスは1962年にジョージ・セルの指揮で再録音しています。”とあるように、53年盤自体が二度目の録音であることもご存じ無い様子。如何にカーゾンが知られていなかったかの証拠でしょう。
この際ですから記すと、カーゾンのブラームス/第1の初録音はSPで発売されたもの。共演は皮肉にもファリャと同じホルダ指揮ロンドン新交響楽団。録音年月日は判りませんが、デッカから K 1491/6 の6枚組みで出ていました。
ベイヌムとの再録音はLPが初出。デッカの LXT 2825 という品番です。

大変に気合の入った演奏で、展開部の開始箇所(226小節から)ではカーゾンのものと思われる唸り声も入っています。
第1楽章再現部で第2主題がピアノからオーケストラに移行する箇所にあるクラリネットの主題の最初の音、8分の6拍子のアウフタクトによる最初の6拍目が演奏されていません(第399小節の6拍目)。
例えばオイレンブルクのスコアでも後から校正したような譜面なので、あるいは録音当時から印刷ミスの譜面が使われていたのかも知れません。提示部の同じ箇所(提示ではフルート)と比較してもこれはおかしいわけで、同作品の古い録音を聴き比べるのも一興でしょう。
それにしても、これについてこれまで指摘が無かったのは何故?

②はブラームスよりやや古い1951年の録音。デッカの優秀録音には違いありませんが、ブラームスに比較するとオーケストラの量感がやや不足。録音というよりオケそのものの差でしょう。
この曲にはチェンバロが使われますが(第2・3楽章)、ほとんど聴き取れません。第2楽章の練習番号21ではチェンバロが使われていることは間違いないようですが、他の箇所では省略しているのではと疑われるほど。何度聴いてもチェンバロが聴こえない。
それにしても「スペインの庭の夜」が最近は演奏会から消えてしまったのは真に残念。レパートリーに持つピアニストがいないのでしょうか。
ピアニスティックにそれほど目立つ作品でもありませんし、最後の消え入るような終わり方が原因かも。
この録音は当初はSPで発売されたもの。K 1158/60 の3枚6面でした。CDでは「繋ぎ」が確認できませんので、最初からLP用にテープ録音されていたのでしょう。
指揮のホルダ Enrique Jorda(1911-1996) はスペイン生まれですが、アメリカの指揮者。
オーケストラの原文表記は、New Symphony Orchestra of London です。ロンドン交響楽団とは別団体。

参照楽譜
①オイレンブルク No.713
②マックス・エシーク ME7934

 

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